· 

読譜力② ~ある時期を境に練習しなくなったAちゃん~

教室を開いて間もない頃の生徒さんにAちゃんという幼稚園生の子がいました。

 

ピアノが大好きな子で、指先も器用で、そしてとてもよく練習する子でした。

 

習い始めの頃、Aちゃんは宿題の曲だけでなく、教本の先のほうの曲まで予習してきていました。次から次に曲が合格になるので、教本の最初の数冊はほんの数カ月で終えてしまったように記憶しています。

「たくさん練習してきてえらいねぇ」とほめると、はにかんだような顔でにこにこと笑う大人しい子でした。

 

そのAちゃんが、ある時期を境に予習をしてこなくなりました。それどころか宿題の曲さえ練習してこなくなりました。いえ、本当は練習していた(あるいは練習しようとしていた)のかもしれません。でも当時の私には、練習しているようには見えなかったのです。

 

いったいどうしちゃったんだろうと思いました。

だんだん曲が難しくなってきて、何かにつまずいているんだろうかとも思いました。

確かに最初は右左「ド」の音だけだったものが、右手「ドレドレ」左手「ドシドシ」と2つずつの音になり、それはやがて3つになり4つになり。そうやって少しずつ音数は増えて音域は広がってきていました。けれども進み方はいたってゆっくりの教本でしたし、第一その前までは何の問題もなくどんどん予習ができるほど楽に弾いていたのです。

曲が急に難しくなっている、とは思えなかったし何かつまずいているような内容があるとも思えなかったのです。

 

レッスンでは音符カードを使って音符を読む練習もしていました。リズムだってちゃんと教えたし、理解もしていました。Aちゃんは器用な子でしたから、両手一緒に弾くところが難しいというわけでもなさそうでした。

 

次々新しい曲を練習して、あんなに意欲的だった子が、なぜ急に家で練習をしなくなってしまったんだろう。

本当に不思議でした。